各世代の健康歯肉 (再掲)
歯周組織の病気の有無を判断するためには、基準となる健康な歯肉を知らなければならない。
当然、出血や盲嚢の深さ等でも判断する事が可能だが、まず視覚的に、感覚的に判断出来るようにしなければならない。
(残念ながら、歯科医師や歯科衛生士は健康な歯肉を観察する機会が少ない。)男性A 15歳
男性B 20才
36歳
51歳
ブラッシング効果のさまざまな姿
症例1 智歯抜歯後の疼痛
⒈ 初診 1968. 1945生 23歳 女性
⒉ 20日後(20d)他院にて智歯抜歯後の疼痛で来院。
歯肉からの出血、疼痛もあった。
痛くなく、出血させないブラッシング指導等により口腔衛生状態を改善。それらの症状は20日で消失した。
すべての歯科処置に先立つ口腔衛生の確立が必須である。症例2 出産前の歯科健診
⒈ 初診 1966. 1941生 25歳 女性
⒉ 22日後(22d)妊娠8ヶ月歯肉出血で来院。
痛くなく、出血させないよう、普段より柔らかめの小さい歯ブラシでゆっくり時間をかけてのブラッシング指導等により口腔衛生状態を改善。
歯肉からの出血・排膿が胎児に悪影響を与えるという一言が大きな動機になった。
それらの症状は22日後には消失した。従来は妊娠性歯肉炎と称されて、ホルモンバランスの変化によるとされていたが、口腔衛生確立により歯肉の症状は消失する。症例3 口臭、多発性歯肉膿瘍
⒈ 初診 1969. 3 1931生 38歳 女性
⒉ 再初診
⒊ 1ヶ月後(1m.)
⒋ 4ヶ月後(4m.)
⒌ 8ヶ月後(8m.)
⒍ 3年後(3y.) 41歳主訴:口臭、多発性歯肉膿瘍
自然良能賦活療法(=フィジオセラピー)の効果を会得させ、スケーリング、ルートプレーニングを行い、口腔清掃の完遂を志した。1ヶ月後には、ほぼ組織の改善がみられた。
4ヶ月後には、下顎歯間離開はほとんど回復した。
歯肉の形態も良好となり、歯肉健康保持が確保できると見受けられた。同症例 歯牙移動詳細
7.8.9. 初診 38歳
前歯部の歯間離開の中には、歯肉病変の随伴症状としての歯牙移動もある。
その場合は歯肉病変の治癒とともに回復する。
しかし、この症例の上顎のように生来のものである場合は、歯肉病変回復のあとでも、歯肉炎発症以前の状態は残る。症例4
ブラッシングだけで日一日と良くなる歯肉
主訴:歯肉の違和感・出血 33歳 男性
歯間離開があり、結婚のため上下前歯に金冠を被せた。
前医より、「あまり歯磨きをすると隙間があく」との注意を受けて、「最近は歯磨きなどしたことがない」と自慢げに話した。
左上 初診 右上 2日後
左下 5日後 右下 18日後ブラッシングの効果だけを抽出して認識させるため、歯肉に傷を付けないよう、ごくゆっくりと時間をかけてブラッシングを行うように指導した。
18日後、これ以上の改善効果は見込みが薄いため、患者の希望通り冠を除去し、除石を行った。
主訴:歯肉の違和感・出血 33歳 男性
歯間離開があり、結婚のため上下前歯に金冠を被せた。
前医より、「あまり歯磨きをすると隙間があく」との注意を受けて、「最近は歯磨きなどしたことがない」と自慢げに話した。上顎前歯 下顎前歯
左上 冠除去直後 右上 冠除去直後
左2枚目 21日後 右中 21日後
左3枚目 28日後 右下 28日後左下 4年後の状態 37歳
症例5
- 初診 : 1966. 2 1904生まれ(b.) 62才(y.) 女性(f.)
- 主訴:
「全部抜いて総義歯でなければ、どうしても駄目でしょうか? 自分の歯で噛めるようには戻せないでしょうか? できればそうしてほしいが、2年で駄目になるのだったらあきらめます」従来は約5年目ごとに大修理して来た。だから5年はもたしてほしい。
- 所見:
清潔好きというご婦人であったが、口腔内は1のような状態であった。ブラシの当てすぎは歯槽膿漏を起こすときいていたことを忠実に守ったという。メインテナンス、その他口腔衛生等の指導は受けたことがない。臼歯バンド冠、ブリッジとその脱離、前歯全部および開面冠による樹脂床付きブリッジが装着され、下顎前歯3〜3のブリッジは右下3の開面冠が破損脱離してあり、その唇舌動揺の幅は5㎜程度合った。支持組織の状態はカラー写真とレントゲンの示す通りである。
残存歯は全部盲嚢深く、下顎前歯ブリッジは初診時、含嗽指導した際、自然脱落した。
数年間このような状態に耐えていたため、体の衰えがひしひしと感じられ、やっと生き延びているようであった。もう一度だけなんとかしてほしいという悲痛な面持ちで、最後の願いを込めての受診であるように感じ取れた。
- 初診 : 1966. 2 1904生まれ(b.) 62才(y.) 女性(f.)
初診 1966. 62y
4年後 1970. 66y
同症例
62yから86yまでの前歯部の経年変化
5. 初診
6. 10ヶ月後 義歯装着直後
7. 4年後
8. 8年後
9. 12年後 義歯形態修正後
10. 14年後11. 16年後
12. 19年後
13. 24年後
86才(1990)まで年1回ほど定期検診に来院されていたが、
加齢に伴いだんだん間遠になった。
1995年91歳、心不全で亡くなるまで約30年間活用された。同症例
下顎犬歯の歯牙移動と同部位の経年変化
左上 初診 1966 62歳 右上 同初診
左下 印象採得時ブリッジ脱離 右下 1ヶ月後(MTM)
下顎前歯部のブリッジ破損のため、右下犬歯は近心及び唇側へ転位し、交叉、反対咬合状態であった。
同犬歯を位置移動してから永久固定装置を合着した。
このような歯冠歯根比が極端に減弱状態にある場合は、永久固定後であっても、咀嚼圧が破壊的に側方圧として加わることを出来るだけ避けなければならない。
歯牙移動のための生涯は認められない。同症例 経年変化
右側の経年変化
1.初診 1966(62歳) 10ヶ月後 1966(62歳)
2.4年後 1970(66歳) 7年後 1973(69歳)
3.13年後 1979(75歳) 14年後 1980(76歳)4.16年後 1982(78歳) 19年後 1985(81歳)
5.10ヶ月後 1966(62歳) 14年後 1980(76歳)
6.16年後 1982(78歳) 19年後 1985(81歳)同症例
左側の経年変化
1.初診 1966(62歳) 10ヶ月後 1966(62歳)
2.4年後 1970(66歳) 7年後 1973(69歳)
3.14年後 1980(76歳) 17年後 1983(79歳)
4.20年後 1986(82歳)8年後(70y)右上連結部の破折
11年後(73y)右上5の再根治
8年後(70y)
庭で倒れたご主人を抱えて座敷まで運んだあと、右上43間に違和感あり、受診。
43間の破折部をインレーにて修復固定。11年後(73y)
左上5根尖に、それまで見られなかった小指頭大の病変を認めた。
再度歯内療法を試みて処置完了。2.5ヶ月後には明確に治癒傾向を示している。
3年前の外傷が原因と推測される。歯牙連結とパーシャル・デンチャーの設計様式
この症例では連結固定とK.K.K.装置を利用したパーシャル・デンチャーで全歯列の固定を図っている。
14年後(76y)義歯修理
初診より7年以降、左下6遠心根、左下7近心根の骨吸収が進んだ。
しかしパーシャル・デンチャーによる歯列の一体的な固定作用により安定していた。
14年後にブリッジ切断。
パーシャル・デンチャーの増歯・修理によって咬合を維持する。左下5を歯冠形態修正し、義歯の支台とする。
クラスプ除去後、補強線を挿入し、増歯。
5の近遠心の床形態は自浄形とした。パーシャル・デンチャー設計の留意点
1.残存歯・義歯ともに、歯垢付着を少なくするために歯間空隙を十分にあける。
2.咀嘔機能を回復しながら咬合圧負担を弱める。
3.維持装置は歯垢付着を助け、除去を困難にするような形態を避ける。
4.残存歯との隣接部床縁は,辺縁歯肉溝から2〜4ミリの距離を保ち,義歯隣接側面を最小にする。
5.パーシャル・デンチャーを可撤固定装置として役立てる。
鉤歯保護のための設計
双歯鉤、鉤脚部を歯間鼓形空隙の位置から偏位し、空隙を閉塞しないようにする。
鉤脚の位置は歯周組織が最も健全な部位を選ぶ。鉤脚部の立ち上がりが小臼歯舌面中央部であることに着目!
鉤歯保護のための設計
鉤の装着によって歯冠形態が著しく変化し、ブラッシングの効果を妨げ、咀嚼食物の流れによる自浄作用を妨げないような設計。
鉤を取込み、鉤・歯冠修復物が一体となった形態が望ましい。レスト部周辺にミリングを施し、鉤そのものが歯冠形態を損なわないように工夫!
まとめ
「ペリオの問題を抱えたパーシャル・デンチャー」を考えるとは、残存歯を治療したのち、パーシャル・デンチャーを設計、製作して装着、使用しながら、ペリオの再発防止に成功する補綴治療の方針はどうあるべきかを考えることで、それは残存歯の治療の成功、パーシャル・デンチャーの効果的完成だけではなく、残存歯とパーシャル・デンチャーの機能の均衡と存続について、つまり効果の持続、再発防止についても考えることである。
そもそも病因が患者の生活のなかにある疾病の治療であるからには、治療第一原則の病因の除去は、患者の生活改善が根本であり、先決条件である。
したがって、最初から始められる最重要治療処置は、患者の生涯にわたっての“病因除去の生活”を創り出す生活改善指導であり、それに成功しなければ再発も防止できず、真の治療成功はありえないと再認識すべきであろう。
補綴処置も、欠損歯の咀嚼機能代行効果を最高にと図るだけでなく、それが病因となることなく、病因除去を妨げず、やりやすくするように行われなければならない。やれるように処置することと、やる気にならせることが、再発防止を含めて根本治療成功の要点である。
とするならば、病因である歯垢を除去しやすくするための、パーシャル・デンチャー装着のままでのブラッシング効果のあがるように設計にすることがぜひ必要で、その具体的方法と結果を症例(カラー付図)によって示した。
やる気をなくさせるのは、慣習上やりにくいこと、あるいはむずかしすぎること。
やる気を続けさせることは、やりやすく援助すること、効果が切実に感得できることである。ペリオの問題を抱えたパーシャル・デンチャーは、ペリオの病因を除去しやすく、再発防止に役立つ補綴装置でなければならないと考える。
同症例における治療の原則
1.病因除去
2.自然治癒能力の回復
3.病変組織の改善
4.回復療法
治療の進め方
1. 緊急処置
来院動機の解消、ある程度の咀嚼機能の回復を図り、患者の精神的安定を得る。
患者の安心を生み、術者に対する信頼の芽生えとなる。
2. 問診・病歴の聴取
この過程で、患者に歯周病の病態を自覚させ、生活習慣病としての病因を気付かせる。
生活全般に対する改善を約束させ、治療の役割分担を受け持たせる。
さらに処置後の自発的定期受診の必要性を納得させた上で本格的処置に入る。
3. フィジオセラピー
口腔清掃の必要性を納得させ、実技指導を行う。
含嗽、ブラッシング指導(指導者が自ら行い、実感させ会得してもらう)。
改善されつつある歯周組織に対する適切なブラッシング法を処方して、その治療効果を認識させる(スライド写真活用)。
4. スケーリング(5の後にする場合もある)
5. 咬合調整、暫間固定(テンポラリークラウン、ブリッジを含む)
6. フィジオセラピー
食生活指導、呼吸法、運動療法など。
7. 硬組織に対する処置
感染組織の完全除去、歯内療法、う窩の封鎖。(左下6近心根、左下7の遠心根は分割抜去)
8. 不正咬合の改善(マイナー・トウース・ムーブメント 右下3の遠心移動)
9. レストレーションの設計と製作
顔貌との調和、発音、咀嚼力、保持・抵抗形態などを考慮した補綴物。
実際の臨床では、これらを同時的、総合的に処置を進める。パーシャルデンチャー
58歳〜69歳 男性
1. 初診から7日後 58歳
2. 初診 58歳
3. 初診から7日後 58歳
4. 6ヶ月後 58歳
5.6. 6ヶ月後 58歳
7.〜9. 6ヶ月後 58歳
10.〜12. 8ヶ月後 58歳
13.~18. 8ヶ月後
19. 4年後
20. 6ヶ月後
21. 8ヶ月後
22.23. 6年後
24.~27. 8年後
小臼歯部にも審美性を配慮
28.29. 65歳
30. 64歳
31. 65歳
32. 65歳
33. 65歳
34.~37. 65歳
38.39. 69歳
40.41. 66歳
42.~47. 66歳
K.K.K.装置を利用したパーシャル.デンチャー
鉤歯は連結
レストシートをよく見て欲しい